電子基準点を活用したRTK測量の仕組み
RTK測量とは
RTK(Real Time Kinematic)測量は、GNSS衛星からの搬送波位相を利用してリアルタイムにcm級の測位精度を実現する測量技術です。通常のGNSS単独測位では数メートル程度の精度しか得られませんが、RTK測量では基準局(既知点)と移動局(観測点)の2台の受信機を用い、両者の搬送波位相の差分を取ることで誤差要因を大幅に除去します。
搬送波位相とは、GNSS衛星が送信するL1(1575.42MHz)やL2(1227.60MHz)といった搬送波の位相情報のことです。コード測位がC/Aコードの波長(約293m)を基準にするのに対し、搬送波位相測位ではL1搬送波の波長約19cmを測定単位とするため、はるかに高い分解能が得られます。
電子基準点ネットワーク
国土地理院は、日本全国に約1,300点の電子基準点を設置・運用しています。電子基準点は、GNSS衛星の信号を24時間365日連続で受信する常時観測局であり、平均約20km間隔で全国をカバーしています。各電子基準点にはGNSSアンテナ、受信機、通信装置が設置されており、観測データはリアルタイムで国土地理院のサーバーに送信されます。
電子基準点の座標は、IGS(国際GNSS事業)の国際基準座標系と整合するように精密に決定されており、測地基準点としての信頼性が極めて高いです。これらのデータを活用することで、測量現場に自前の基準局を設置することなく、ネットワーク型RTK測量を実施することが可能になります。
電子基準点のデータは、民間の配信事業者を通じてリアルタイムに配信されており、測量業者は月額契約などで補正データを受信できます。代表的な配信サービスとしては、ジェノバ社の「ジェネット」や日本テラサット社の「ALES」などがあります。
VRS方式とFKP方式
ネットワーク型RTK測量には、主にVRS(Virtual Reference Station:仮想基準点)方式とFKP(Flachen Korrektur Parameter:面補正パラメータ)方式の2つの補正方式があります。
VRS方式では、移動局の概略位置を配信サーバーに送信すると、サーバー側で周辺の電子基準点データから移動局の近傍に仮想的な基準局を生成し、その仮想基準局からの補正データを移動局に返送します。移動局は、あたかも近くに基準局があるかのように単基線RTK解析を行えるため、処理が比較的シンプルです。ただし、双方向通信が必要な点がデメリットです。
一方、FKP方式では、サーバーが広域の電子基準点データから空間的な誤差の補正パラメータ(面補正係数)を算出し、一方向で配信します。移動局側でこの補正パラメータを使って自ら補正を行うため、双方向通信が不要で、多数のユーザーが同時に利用できるスケーラビリティの高さが特長です。
ドローン測量でのRTK活用
近年、RTK対応のGNSS受信機を搭載したドローンが普及しています。DJI Matrice 350 RTKやPhantom 4 RTKなど、多くの測量用ドローンがRTK機能を標準装備しており、撮影時にcm級の高精度なカメラ位置情報を取得できます。
ドローン測量でRTKを活用する方法は主に2つあります。1つ目はリアルタイムRTKで、飛行中にネットワーク型RTKまたは現場に設置した基準局からリアルタイムに補正データを受信し、各撮影位置を高精度に測位する方法です。2つ目はPPK(Post-Processed Kinematic)で、飛行中はGNSSの生データを記録しておき、後処理で基準局データと合わせて解析する方法です。
RTKは通信途絶のリスクがありますが、PPKは後処理のため通信環境に依存しません。一方、RTKはフィールドで即座に結果を確認できるメリットがあります。高精度なRTK/PPK測位により、GCP(地上基準点)の設置数を大幅に削減できるため、広域の測量現場では作業効率が飛躍的に向上します。
RTK測量の精度と注意点
RTK測量の一般的な精度は、水平方向で1〜2cm、垂直方向で2〜3cm程度です。ただし、この精度を安定して得るためにはいくつかの注意点があります。
まず、マルチパスの影響です。建物や構造物で反射したGNSS信号が受信機に到達すると、測位精度が大幅に低下します。周辺に高層建物や金属構造物がある場所では、マルチパスの影響を受けやすいため注意が必要です。
次に、衛星配置の指標であるPDOP(Position Dilution of Precision)値の確認が重要です。PDOP値が小さいほど衛星のジオメトリが良好で高精度な測位が期待できます。一般的にPDOPが3以下であれば良好、6を超える場合は測位精度の低下が懸念されます。
また、RTK測量では整数値バイアス(アンビギュイティ)の初期化が必要です。初期化に要する時間は通常数十秒から数分ですが、衛星数が少ない環境やマルチパスが多い環境では初期化に時間がかかったり、Fix解が得られなかったりすることがあります。測量開始前に必ずFix解が得られていることを確認しましょう。